4月は年度の切り替わり。
ほとんどの場合、官公署の年度は4月に切り替わります。そのためこのタイミングで条例が改正されたり新たな条例が施行されることが多いです。

以前から通知はされていましたが、この2020年4月から大阪市における特区民泊(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)に関する条例の改正版が施行され、認定要件に変更がありました。
大阪市:大阪市国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区)

具体的には、特区民泊認定申請前の「周辺住民への説明会の開催」が義務化される・「説明事項」に追加がある、というものです。この条例の変更は2020/4/1以降に行われる申請から適用されます。

これまでの周辺住民への説明は2種類から選択

大阪市内の物件で特区民泊申請をする場合、条例改正前も施設の周辺住民への説明を申請までに行う事自体は必須でした。

ただし、その方法というのは

  • 説明会の開催
  • 周辺住民へ個別訪問

上記の2種類より選択可能だったのがこれまでのやり方。これが今後は「説明会の開催」のみしか選べなくなります。

申請する民泊施設が戸建ての住宅街の中に存在するような場合は、周辺の住宅の数も限られているので(説明に行かなければいけない対象住宅に関しては、大阪市のガイドラインで決まっています)、せいぜい10戸~20戸程度と周辺住民への説明も比較的楽でした。

これが説明対象住宅にマンションや大きなアパートが含まれていると、一気に手間が増えます。マンションなどでは、空き部屋以外の全戸が対象になりますので、100戸~200戸ぐらいは平気で超えてきます。

当事務所の場合、特区民泊の認定申請を手掛けるようになって以来、この周辺説明に関しては全て個別訪問で行っていました。

説明会を開催するには、会場の確保にはじまり事前の告知に日程調整等とかなり手間暇がかかるのに対し、戸別訪問の場合は同じ日に全戸訪問する必要もなく、説明会開催に比べてずいぶん手間が少なくて済みます。

しかしそれが2020/4/1より、説明会開催のみという事態に。
行政書士が特区民泊申請代行業務を行う場合、あらかじめ基本料金に周辺説明を組み込んでいる場合と、別料金にしている場合と2パターンのどちらか。

周辺説明を最初から含んだ料金体系にしている場合、おそらく手間暇から考えて、周辺住民説明を戸別訪問で対応してきたのではないでしょうか?

であれば、今後は料金の見直しが必要でしょうね。従来の料金のままで説明会開催まで代行で受けていると、労働量に対しての報酬額が釣り合わなくなってしまいます。

クレーム等により説明会開催必須に

今回の大阪市の条例改正については、事前に保健所からも周知されていたので、年頭の1月くらいから民泊関連を取り扱う行政書士の間では、共有されていました。

その間にも大阪市保健所の窓口で手続きすることが多く、この話と民泊新法で消防法令適合通知書が必須になる件については、ちょこちょこ窓口の人と話していました。

保健所いわく、従来の周辺住民説明の方法では周辺住民からのクレームやトラブルが多く、やむなく今回の条例改正に至ったそうです。

これを聞いて思い当たる節が結構ありました。

民泊の許可手続きにおいて、少なくとも行政書士が手続きの依頼を受けた時は、きちんと法令に基づいた手続きを行っているはずです。
ただ、それ以外の業者さんやオーナーさん本人が手続きを行っている場合、若干グレーな事例も見受けられるのが現実。

こんなこともありました。
同じ物件で先に民泊新法の手続きをしておいて、後から旅館業許可を申請するという案件。費用を抑えるために新法の手続きは申請者(不動産関係者)が行い、手続きが複雑な旅館業許可は行政書士が行うということで、打合せをしていた時のこと。

手順について説明をしていると、
「周辺説明住民への説明って実際みんなやってないですよね?やったことにしてるんですよね。」
と真顔で質問が。

トラブルが生じる可能性もある上にそもそも条例違反になるので、ちゃんとやらなければいけない旨を説明しました。

しかしこういった認識をもったまま手続きを進める方も多くいたようで、結局それが周辺の住民とのトラブルを誘発し、無視できないレベルのクレームを生み出し今回の条例改正に至ったのでしょう。

説明会開催の手順

説明会の開催も、ただ開催すればいいというわけではありません。ガイドライン記載の一定の手順に沿って行わなければやり直しとなり、無効になってしまいます。

  • STEP1
    説明会の開催案内(配布・提示)
    配布から説明会開催まで概ね一週間前後の期間を設けて、対象となる住宅に開催案内書の配布を行います
    また施設の前に開催案内書を提示する必要があります(※申請時に掲示していることが分かる写真が必要)。それ以外にも近隣住民の目に留まりやすい建物出入り口付近にも同様の書面を提示することが望ましいです。
  • STEP2
    説明会の開催
    必要事項の説明を行います。開催日時及び開催場所については、周辺住民の意向をよく聞き取り、地域の集会場や施設内で行う等より多くの住民に参加してもらうよう努める必要があります。
  • STEP3
    説明会欠席者への説明事項を記載した書面の配布
    説明会不参加の方に対して追加の説明会開催は不要ですが、事業者情報や施設の管理方法が記載された書面を配布する必要があります。ただし、開催案内の書面に必要事項が記載されている場合は後からの配布は不要です。
  • STEP4
    開催結果等を添付し、認定申請
    認定申請には、開催日時を提示した状況が明らかとなる写真等の添付書類が必要です。
  • STEP5
    現場調査
    特区民泊認定申請後、保健所より現地調査があります。
  • STEP6
    認定
    STEP1で施設の出入り口付近に張り出した掲示物は、認定を受けるまで提示が必要です。

説明すべき事項の追加

特区民泊に関する大阪市の条例改正に伴い、大阪市のガイドラインも2020年4月より新しいものが使用されます。
大阪市:大阪市国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区)

このガイドラインの中で、周辺住民への説明に関しては、P.13より解説されています。
注意すべき点は、周辺住民への説明事項の中にこれまでなかった項目が追加されていることです(P.14に記載)。

改正前の説明項目

  1. 特定認定を受けようとする者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)
  2. 施設の名称及び所在地
  3. 事業の概要
  4. 苦情等の窓口の連絡先(責任者の氏名、電話番号等)
  5. 廃棄物の処理方法
  6. 火災等の緊急事態が生じた場合の対応方法

改正後の説明項目

  1. 特定認定を受けようとする者に係わる法第13条第2項第1号及び第2号に掲げる事項(※1)
  2. 令第13条第1号に規定する施設(以下「施設」という。)の名称及び所在地(※2)
  3. 苦情及び問い合わせ(以下「苦情等」という。)に対応する者の氏名及び電話番号
  4. 廃棄物の処理方法
  5. 騒音を防止するための方法
  6. 火災等の緊急事態が発生した場合の対応方法

ガイドラインでは、改正された大阪市の条例第3条を抜粋する形で追加事項を記載しています。当てはめて読めばいいだけですが、上記↑に記載された同じ13条でも「法」と「令」とそれぞれ参照するものが違うので、下記に補足。
「法」→国家戦略特別区域法
「令」→国家戦略特別区域法施行令

※1
法第13条第2項第1号及び第2号に掲げる事項とは
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 その行おうとする事業の内容
以上の2点です。

※2
認定申請する施設の名称と所在地です。

ちなみに※1に掲げている内容は、改正前の条例でも似た内容が周辺説明時に周知していなければならない事項として存在していましたが、「事業者の住所」は必須事項ではありませんでした。

事業者の氏名又は法人名+代表者名だけでよかったのですが、改正後からは「事業者の住所」も記載しておかなければなりません。
「事業の内容」は改正前の条例と変わらず必須事項となっています。

これに加えて、新たに追加で説明会の際の必要事項となったのが「騒音を防止するための方法」という項目です。

「騒音を防止するための方法」の記載例

新たに追加となった「騒音を防止するための方法」ですが、具体的にどのように対策し、また周辺説明時にどのように記載するのかは大阪市の特区民泊ガイドラインに記載されています。

居室内に備え付けている利用案内書に、夜間及び早朝は大きな音を出さないこと等を明記するとともに、滞在者に対し利用開始前に当該利用案内書を用いて、注意喚起を行う。また、居室内の○○○に注意喚起する張り紙を掲示する。
近隣の方から騒音に係る苦情があった場合は 24 時間対応し、必要があれば速やかに駆け付け、滞在者に対して直接注意する等の対応をとる。

上記に基づいて、資料・実際の対策等の準備をしましょう。

注意事項

以上のように、「事業者の住所」及び「騒音を防止するための方法」が新たに説明事項として追加されました。
そして、説明会の開催が必須となります。

上記の追加要件を満たさずに周辺住民への説明会を行った場合は、再度の説明会が必要となります。

戸別訪問で大丈夫だった時期は、もし説明事項で記載漏れや説明漏れがあった場合でも、資料を作って追加で周辺住宅を訪問すれば済みましたが、説明会を2度開催するとなるとかなり大変です。

不慣れであれば、説明会を開催する前に一度作成した資料をもって保健所で確認してから行うほうがいいかもしれません。