4月は年度の変わり目で法律や条例の改正がなされることが多いですが、民泊新法に関してもこの4月に変更がありました。
民泊新法の届出手続きの根拠条文は「住宅宿泊事業法」で、大阪市内の物件で届出をする場合、細かな部分について「大阪市住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例」の規定に沿って運用されています。
2020年4月1日よりこの「大阪市住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例」及び「大阪市住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例施行規則」が改正された結果、届出時に「消防法令適合通知書」の添付が必須となりました。
緊急事態宣言の発令を受けてからも、休業要請の対象にならない行政書士法人ひとみ綜合法務事務所は変わらず365日年中無休、全国対応、急なご相談も複数スタッフにて極力対処します。対面、メール、電話相談のほか、Webex(ZoomよりWebexのほうがセキュリティ上安心です)、Zoom、Skypeビデオ動画相談も受けています。
Table of Contents
消防法令適合通知書とは
そもそも言葉の定義として「消防法令適合通知書」とは何か?というのを簡単に説明しておきます。
民泊に関する許認可(旅館業許可、特区民泊認定、民泊新法届出)を取り扱っていると、この消防法令適合通知書は申請において非常に重要な書類です。
一般の戸建て住宅やマンション・アパートに比べて、利用者を宿泊させるホテルや旅館などの宿泊施設は、消防法令における設備基準が違います。
もちろん、同じ人がずっと住み続けることが前提の「住宅」に対し、不特定多数の人が寝泊まりする「宿泊施設」のほうが基準は厳しくなります。
民泊関係の許認可をする場合は、消防法令上「宿泊施設」としての基準をクリア(義務づけられた設備が設置されている)しているかを証明しなければいけません。これを証明する書類が「消防法令適合通知書」です。
たいていの住宅は宿泊施設としての消防設備が整っていないので、追加で消防工事を行うことになります。
消防工事が終了後、管轄の消防署へ消防法令適合通知書の交付申請を行い、消防署から立入検査を受け、義務づけられた事項をクリアしていれば、消防法令適合通知書を発行してもらえます。
そしてこの通知書を添付して、保健所へ民泊の許可申請を行う、というのが通常の流れ。
大阪市条例改正で追加された条文
今回の条例改正にに該当するのは、大阪市住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例の第5条。
旧条例の5条が6条へと移動し、新たな5条が追加されたという形になっています。
追加された5条は下記のとおり。
第5条 届出予定者は、届出をする際、住宅宿泊事業を営もうとする住宅が消防法(昭和23年法律第186号)その他の消防関係法令に適合していることを証する書面として市規で定めるもの(以下「消防法令適合通知書」という。)を市長に提出しなければならない。
2 住宅宿泊事業者は、法第3条第4項の規定による変更の届出(同条第2項第7号に掲げる事項(住宅宿泊事業法施行規則(平成29年厚生労働省令・国土交通省令第2号。以下「省令」という。)第4条第3項第8号から第10号までのいずれかに掲げる事項に限る。)の変更に係るものに限る。以下「変更届」という。)をする際、当該変更届に係る住宅に係る消防法令適合通知書を市長に提出しなければならない。
更にこの条例改正に合わせて「大阪市住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例施行規則」も改正されています。
規則も条例と同じく5条に新たな内容が追加されています。
第5条 条例第5条第1項の市規則で定める書面は、消防署長が作成した次に掲げる事項を記載した書面とする。
(1)届出予定住宅又は変更届に係る住宅が消防法(昭和23年法律第186号)その他の消防関係法令に適合している旨
(2) 届出予定者又は変更届をしようとする者の氏名及び住所(法人その他の団体にあっては、その名称、代表者の氏名及び主たる事務所の所在地)
(3) 届出予定住宅又は変更届に係る住宅の所在地
(4) 消防職員が立入検査を実施した日
(5) 届出又は変更届の別
(6) その他市長が必要と認める事項
どちらの条文を見てもわかりますが、追加されたのは「届出の際に消防法令適合通知書が必須になった」という内容です。
これまでも消防法令適合通知書は必要であったが
ここで、今までも民泊新法の届出も消防法令適合通知書が必要だったんじゃないの?という疑問がわいてきますが、それは半分正解で半分不正解です。
例えば、昨年2019年9月の「大阪市住宅宿泊事業の届出に関する手引き」のP.5を見ると届出に添付する書類の中に「消防法令適合通知書」が含まれています。
ガイドラインや手引きだけを見ると、消防法令適合通知書の添付は必須なのかと思いますが、実はそうでもなく届出の時点で消防法令適合通知書がされていなくても、受理され、届出番号は交付されていました。
何故そうなるかといえば、届出手続きの根拠となる大阪市の条例の中に必要書類として消防法令適合通知書が記載されていなかったからです。
こういったことがあるので、申請や届出の際に役所から何か書類を要求された場合、それが何故必要なのか、根拠となる条文にあたってみることは大事です。
今回の件でいえば、住宅が宿泊施設として使用されるには消防上、法令に適合していなければならない、その証明として消防法令適合通知書の取得が必要、ただしそれは届出の際大阪市の条例上は必須書類とされていなかった、となります。
なお、消防法令適合通知書のみではなく、その他の添付書類についても無いままで届出ができるものがあります。
消防法令適合通知書がなくても届出が可能だった理由
ここからは少し考察。
この、消防法令上ではダメだが保健所の届出においては許可(届出番号)が出てしまうという状態は、大阪市としてはあえて残しておいたグレーな部分だったと思います。
というのも、大阪市としてはまず潰したいのは違法民泊、そして民泊運営業者を保健所で把握・管理しておきたいという意向があった。はずです。
保健所が運営者を把握するためには、届出・認定・許可のどれかを申請してもらわなければなりません。
過去に違法民泊がものすごく多い時期がありましたが、民泊周りの法制度が整備されていくにつれ、正式に許可をとる業者さんも増えてきました。
罰則が強化されたこともありますが、それ以上にまともにビジネスを継続していくのであれば、違法状態で運営していくことはデメリットだらけで何のメリットもないからです。
そこで、では、許可を取ろうとなったときに一番引っかかるポイントが消防設備でした。通常の住宅が宿泊施設として消防設備を法令に適合させようとすると、必ず消防設備の工事が必要になります。ごく最近建てられた物件で、新築からあらかじめ宿泊施設として運用することも考えた設備にしていた場合はそうでもありまえんが、それは稀なケースです。
古いマンションやアパートの1室で申請希望の場合、消防設備は建物全体で見ますので、一棟丸ごとの工事が必要になることもあります。これは長屋でも同じ事。
ここがネックとなって、なかなか案件が進まない・許可取得を断念するケースもありました。
単純に民泊の運営そのものを諦めるのであれば、それは仕方ありません。問題は許可取得を諦めてそのままヤミ民泊として運営を続けてしまうパターン。
保健所として避けたいのはもちろん後者のパターンです。
であれば、まずは届出をしやすい環境にしておくのがベターだったのではないでしょうか。
そのため、消防法上アウトでも保健所的にはセーフという状態を残しておいたのではないかと考えられます。
いずれにしても、2020年4月の改正条例の施行で消防法令適合通知書の添付は必須となりました。
今後は消防検査を経た上でなければ届出ができない
とはいえ、条例で定めていないから適合通知は不要というものではなく、建物を宿泊施設として使用するにあたってはそもそも必ず必要になるものです。
適合通知を取得せずに民泊新法の届出を行うのは、あくまでその後同じ物件で特区民泊認定もしくは旅館業許可を取得するという条件であれば行っていました。
特区民泊認定申請や旅館業許可申請は、申請時点で消防法令適合通知書の添付が必須です。つまり必ず同じ物件にて消防工事を行い、適合通知を取得しなければなりません。
ただ適合通知を受けるにも時間がかかります。大阪市内で旅館業許可を取得しようとすれば、最終的に許可証を手にするまで半年以上時間がかかることもあります。賃貸物件で民泊の許可を取得しようとしていた場合、ただ待っていたのでは膨大なカラ家賃が発生してしまうでしょう。
先に適合通知無しで民泊新法の届出を行うのは、特区民泊や旅館業の許可が下りるまでの間を合法的に民泊運営できるようにする為でした。ですので、その後に適合通知を取得するのは必須。消防法令上は設備が適合していないわけですから。
民泊新法の届出をした後に、必ず適合通知を取得する(つまり特区民泊か旅館業許可の申請を行う)という流れであれば、グレーな状態は解消され全く問題のない合法民泊という形になります。
しかしこのことが浸透し始めたからあたりから、届出後も消防法令適合通知書を取得せず、ずっと適合無しのまま民泊新法の運営を続けている物件があるような話をチラホラ聞くようになってきました。
繰り返しますが、宿泊施設として物件を使用するのなら、消防設備を必ず法令に適合させなければなりません。さすがにそれが増えて続いていくと、問題化するのではという懸念もありました。
消防のほうから大阪市に何度もその話を持ちかけているというのも、消防署での窓口の人との雑談の中でも聞くこともしばしば。設備が整っていないなんてことは、いざ火事が起きれば火の中へ飛び込んでいかなければいけない消防署員にとっては、生き死にのかかった非常に重要な問題です。
結局そういった声もあり、またグレーな手法のまま残された物件が増えすぎたため、今回の条例改正に至ったのだと思います。
これまではその他必要書類と図面が揃ったらまずは届出、となっていたものが、間に「消防署に適合通知交付申請→消防検査→消防法令適合通知書取得」という工程が挟まってから届け出をしなければいけなくなりました。
正直なところ、これでは特区民泊認定申請と行程があまり変わらなくなります。もちろん申請・届出をしてから番号が出るまでのスピードはけれども民泊新法届出が圧倒的に早いですけれども。
現在届出済みの住宅も変更時には必要になる
今回の改正条例で、届出時に消防法令適合通知書の添付が義務化されました。
それだけでなく、すでに民泊新法の届出を行っている物件でも下記の事項に変更があった場合には、変更届出書に消防法令適合通知書を添付しなければなりません。
- ア 一戸建ての住宅、長屋、共同住宅または寄宿舎の別
- イ 住宅の規模
- ウ 住宅に人を宿泊させる間、届出者が不在とならない場合においては、その旨
変更の際の適合通知の添付は、届出時に提出している場合でも、上記の変更内容に該当するのであれば再度の提出が必要です。
もちろん届出時に添付していない場合も、変更届出時には必須。